それでも生かされてる私

伴侶の突然死からの復活

知る


人は辛く苦しい時、どうやってその緊張を解くのだろう。

行き詰まり足が前に出ないもうこれ以上、ダメだと思う時、

駅のホームで向かって来る電車を見つめる、ベランダから外を見下ろす、

ドラッグストアの棚で視線が彷徨う・・・・浮上するひとつの言葉・・・

熱も光も無い静寂に吸い寄せられていく。有から無への旅立ち。そうなれば時空を漂う

紫煙のようにさえなれる・・・自由へ、自由自由自由・・・この身体からも解放され、

無限に広がる別世界へ。小さな単位、原子とか素粒子とかになって同じ空間を漂う。

歓びは無くても悲しみも無い。


しかし、まだ今は漂ってはいられない厳しい現実が次々と目前で展開されて行く。

どうやって立ち向かえばいいのか、あの夜を境に別物になってしまった世間。


せめて、どうしてこんな事になってしまったのか教えて欲しい・・・さよならも言わず、

独り逝ってしまった。私はどうしても彼とコンタクトを取りたかった。その方法は⁇



独りでなんか死んでしまいたくなかったはず・・・彼は始まったばかりのふたりの生活に

満足していたはず。楽しかったじゃない、友達を連れて帰ってご飯を食べた夜。

楽しかった。彼は喜んでいた。そう、そのはず… あーでももう、私にはわからない。

何故何も告げずに・・・予兆はあったのか・・・・・?

教えて欲しい、説明して欲しい。目の前に現れて愛していると言って欲しい。どうして

私を置いて逝ってしまったのか・・・どうして⁇

貴方が思っていた程、強くはないのよ私。

崩れていく足下、何処までも落ちていく。奈落の底にさえ辿り着けない。

ブラックホールに吸い込まれていく。そうなったら逢えるのだろうか。早くそうなって。


あの日、彼は私の様にこの世を捨てようとしたのではなかった。生きていたかった、はず。

せめて私が行く迄は生きていて欲しかった。


時間は後戻り出来ない。それだけ。

私達が選んだ新しい生活、その第1章はこうした形で始まった。



ひとりでめくるには重たすぎるページ。しかし今後めくり続けなければならない。

身悶えする苦しみ、説明のつかない現実。どうしたら持ち堪えられるのか。

夜中の電話。その明け方、ものを言わない夫と対面。

生きていて欲しかった。さよならする事になったとしても。喋れなくても目が

開けられなくても、生きている証を感じられたらそれでいい。

どうしてこんな事になったの⁇⁇⁇…変わり果てた彼を引き取り車で運んだ。

もう動かない喋らない物体・・・

車中からは、晩秋らしい青い青い空と雄大な富士山の姿がくっきりと鮮やかに見えて

驚いた。何故こんな景色が展開するのか、私と彼の目前で‼︎

富士の裾野を車は私と彼を乗せて走った。これほど見事な富士を見た記憶はない。

余りにもかけ離れた・・・ドライブ日和、一緒にドライブしてるね、きっと・・・

後ろを振り返るともう動くことはない彼が布に包まれ横たわっていた。

これは? 涙も出ず、私は戸惑い、運転手さんに喋り続けた。


受け入れ難い現実に、私は永遠の命を引き寄せようとした。しかし・・・

まだ踏みとどまり、この世で生きる方法を何処かで模索しているもうひとりの私がいる

・・・・・・・

それに気づいた時、全てに絶望しながらもまだ完全に捨ててはいなのだと悟った。

違う次元に逝ってしまった彼と共に生きて行く方法はあるのか?

それを探し当てなければならない。